その月光は「未来」を照らす~"WHITE PAGE"を読む。~
「――勇気が、欲しいんです」
「――可愛いアイドルに、こんなになりたいのに」
『……唯ちゃんも、アイドルですよ……?』
「そんなことないよ」
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アイドル・瀬月唯は、何を思って「アイドル」になったのか。
「アイドルって何ですか?」――白紙のページを彩り出す彼女は何を「答え」とするのか。
彼女は何を「変える」のか。
そんな話を書いていきます。(キャラ名は敬称略)
※アイドルコネクトADV(主にメモリア2章)のネタバレを含みます。ダメな方は今すぐ財布から500円玉を取り出してPlay StoreかApp Storeに凸して下さい。
1. だから私は「アイドル」になりたいんだ。
以前メモリア1章の感想記事を書いた時、3人はなぜアイドルになりたい(なった)のか?という部分について触れました。
各々のアイドルには方向性が似て非なる動機がありましたね。
1章時点で言えば、瀬月唯がアイドルを目指し、事務所に所属したのは「可愛いと言われたら楽しそうだったから」、という動機があったからでした。
可愛いものが好き。自分もそうなりたい。「可愛い」と思われたい。
アイドルになればそれを実現できるかもしれないと考え、知らない世界を知ろうとしたんです。
まあこの動機だけ見たら「なんだこの子…」ってなるじゃないですか。
でも、ここにはもう少しだけ奥妙な意味があると思うんです。「可愛くなりたい」という熱が真ではない…とまでは言いませんが、「ちやほやされたい」とか「私だけを見てもらいたい」とか、そういうニュアンスでないことは確かなんです。
公式HPの紹介文。
——まだ見ぬ自分を見つけたいから、アイドルになった女の子。
クールな見た目とは逆に、乙女な性格でかわいいものが大好き。
人並みはずれて不器用で、料理などはまったくできない。
「まだ見ぬ自分を見つけたいから、アイドルになった」。
瀬月唯に限らず、「アイドルになること」は広く言えば「新しい自分になること」と見えます(少なくともここではそういうことにします)。
同ユニットの春宮空子で言ったら、「人を笑顔にしたいから」という動機があります。これは「人を笑顔にできる自分になりたいから」と言い換えられますね。
つまり、誰も彼も、何かしらの「変化」を求めてアイドルになったんです。「変化」が底にあって、なりたい自分があって、変えたい何かがあって、そして「アイドルになる」。
これはアイコネ以外にも当てはまることだと思います。
でも、瀬月唯の場合はどうなのか?と言えば、
彼女にとっては「変化」そのものがアイドルになる理由なんです。他の子とは異なり、変わった先にどうなりたいかはそこまで重要じゃない。
何より新しい自分になること、「変化」こそがアイドルという輝く存在に見出した彼女の希望なんじゃないかと。
「変わりたい」から、アイドルになった。
じゃあ、最初の「可愛く見られたい」という動機は何だったのか?
仮に瀬月唯が理想とする自分像を手に入れ、「可愛い」と言われるようなアイドルになったとしましょう。
考えるのは、彼女が「他者(≓ファン)から見て可愛いと言われたいのか」ということです。上に挙げた「自分を変えたい」という信念があるとするなら、
「可愛いと言われる」より「可愛くなった自分を認める」ことが彼女にとっては重要なんだと思えてきませんかね。
他人の言葉ではなく、自分自身がどう思うかに"可愛い"の基準を求めるんです。
可愛くなった自分、変化した自分を“自分で”認めたくて、「アイドル」になった。
2. WHITE PAGEと「過去」
自分を変えたかった瀬月唯にとって過去は「否定するもの」じゃなくて「変われたことを自覚させるもの」であって受け入れる対象なんですよね、最高かな…… pic.twitter.com/KHeRCW0S9P
— サト (@Sato_BeginninG) 2019年10月18日
瀬月唯が歌う「WHITE PAGE」の歌詞には彼女が「アイドルになる前の過去」をどう捉えているのか?が読み取れる部分があります。
また流れていく 色あせただけの風景
いつまでこんな日々が続くのだろう?
WHITE PAGE / 瀬月 唯
あの日のジブン (幼いワタシ) 忘れないで 笑顔になれる
WHITE PAGE / 瀬月 唯
君と キラキラキラめく 未来でずっと
みんなのために歌って あの日の私も大事な記憶
忘れないよ
WHITE PAGE / 瀬月 唯
以前の彼女が見ていた世界は、味気なく「色あせた」ものだった。
アイドルになって「変わった」自分からすれば、そんな過去はできれば忘れていたいものだし、今現在の自分が大切で、輝いているんだと思いたいはず。
でも、WHITE PAGEで唄われているのは明らかに「過去の自分を肯定する」意志なんですよ。
『1. だから私はアイドルになりたいんだ。』で言ったように、彼女は自らを認めたくてアイドルになった。輝いている自分を、変わった自分を認めたくてアイドルになった。
そもそも「変わったかどうか」という命題を検証するためには、自身の変遷、つまり「今」と「過去」を比較する必要があります。
つまり、「今」だけじゃなく、「過去」も認識の対象にあるべきなんです。
どちらが欠けてもそれを成すことはできない。
「今」と「過去」の両方を認識してこそ「変わった」ことを認められる。
だからこそ、瀬月唯は過去を肯定し、過去を大切に感じていると思う訳です。
また、この関係は互換性があるとも言えます。
色あせた「過去」があったからこそ、輝いている自分が「変わった」と認められる。
輝いている「今」があるからこそ、「大丈夫だ」と過去の自分に胸を張って言える。
「WHITE PAGE」は今一瞬ばかりじゃなく、総体としての自分を真の意味で「認める」歌なんじゃないかと。
3. 唯なる月光
こうして見るとADV・メモリア2章の話も割と理解しやすくなります。
初ライブを通して、自分でもアイドルとして輝けることを知った唯。
次のライブに向けて個人PVを撮影することになるも、その中で空子・千乃との違いを目の当たりにし、理想とする「アイドル」になれない自分に思い悩む。
アイドルがやはり遠い存在であること、チームメイトの足を引っ張ってしまっていること、他人の評価と本当の自分は違うこと…折り重なる苦悩の末に、「自分はアイドルに向いてない」と言い出してしまう。
自分を責め続ける唯に、空子は「アイドルになった理由」をもう一度確認する。
アイドルになりたい、歌いたい――そう思ったのは確かに自分、「過去」の自分だ。
かつて「変わりたい」と思ってアイドルになった自分は、今それを否定するかのように思い悩んでいる。「変われない自分」を認めようとしてしまっている。
多分それじゃダメなんだ。「過去」が願ったのなら、「今」が答えるべきなんだ。
過去の自分を認めて、今を変えて、そして私は私が理想とする「アイドル」になる。
「変わる」んだ。
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「変わった」彼女は、次に何を変えるのか。
「この声が、歌が、未来の私に繋がりますように。」
瀬月 唯(R+・ユニーク)
その月光は■■を照らす。